※自分の別ブログに掲載していた記事ですが、改めてこちらにまとめました。
ハリウッド映画で使われる脚本スタイルに、ビートシートメソッドというものがあるそうです。
ハリウッド大作映画がどれも似てしまう原因となる台本作りの「公式」とは? – GIGAZINE
知らない脚本家が存在しないほど業界には浸透しきっており、猫も杓子もこれに沿って制作されているとか。物語を「準備段階」「対立」「解決」の3ステップに解体し、場面も細かく割り振られているのが特徴です。ブレイク・スナイダーの『SAVE THE CATの法則』によって日本でも広く知られることとなりました。
上の記事は「このメソッドのためにどんな大作映画も似たり寄ったりになってしまう」とする批判ですが、新人やアマチュアの脚本家にしてみれば”使い古された”手法から王道を学びたいのもまた本音。
このメソッド、では、具体的にどう活用すればいいのか。
手元になぜか2014金ロー版もののけ姫の時間進行メモがあったので(こんなのをメモしてたなんてよほど暇だったのか何だったのか)、今回は「もののけ姫(2014金ロー版)」を題材に、ビートシートメソッドの展開実践を垣間見てみましょう。
実際のビートシートメソッドは110分作品を想定して組まれており「もののけ姫」は約133分、更に2014金ロー版はCMや色々が入って約142分なので、そこは帳尻を合わせました。
以下、メソッドの和訳は「クーのいる世界」さまからです。ありがとうございます。
■1.準備段階
1-A:オープニングイメージ(p.1)
物語全体の雰囲気を提示。主人公の設定と抱えている問題を提示。
オープニング。神々しい山と「もののけ姫」のタイトル。
1-B:テーマの開示(p.5)
メインテーマの開示。主人公の抱える問題の解決法など、動機を与える。
タタリ神の襲撃。エミシの青年アシタカは村を守ってタタリ神を倒すが、代償として呪いを受けることに。

1-C:お膳立て(セットアップ:p.1-10)
主人公以外のメインキャラ達(サブキャラ)を提示。
過去やプロフィール等、設定の描写。1-A及び1-Bを含む。
ヒイ様・カヤらエミシの一族が描かれる。
アシタカは一族の未来を背負った若者だったが、死に至る呪いを解くため西へ旅立つことになる。

1-D:きっかけ(触媒:p.12)
一つ目の大きなイベント発生。友人、恋人候補に出会う、敵と出会うなど、物語が動き出す。
偶然通りかかった合戦場で腕の痣が反応し、人ならざる力が発揮される。
1-E:熟慮(p.12-25)
主人公の前に、今、選択すべき問題が発生。ここで主人公は賭けに出るまでを悩む。
市場にてジコ坊と出会い、旅の示唆を受ける。エボシ登場。
エボシの隊列は山犬に襲われて崩壊。翌朝アシタカは水辺でモロを助けに来たサンと出会い、
名前を名乗り、初めて言葉を交わす。

1-F:第二セクションへ移行(p.25-30)
主人公は決断し、新しい世界への扉を開ける。
コダマに導かれ、怪我をした甲六らと共にシシ神の森へ入る。
■2.対立
2-A:サイドストーリー(p.30)
サブキャラの主人公に対する感情を設定、開示。
ここでハッキリとした敵対が生まれる。他に友情、恋愛感情なども現れる。
静謐な池で”生命を司る神”シシ神に遭遇。シシ神はアシタカの存在に気付く。痣が急に反応する場面。
アシタカらは無事に山越えを果たしてタタラ場へと辿り着く。

2-B:楽しみと遊び(p.30-55)
軽い調子のお約束的展開と中間点への伏線。物語の中だるみを防ぎつつ、読者の共感を呼ぶ効果がある。
タタラ場の様子。生き生きとした集落の人間模様が描かれると同時に、
アシタカに呪いを授けた直接の原因についても言及された。
エボシが山を崩し森を焼き払うだけの純粋悪ではなく、人間社会においては
弱者を守る良き統治者でもあることが示され、アシタカは新たな迷いを抱える。

2-C:中間点(p.55)
主人公のストーリーと敵のサイドストーリーがクロスする。
物語はここで一旦、主人公が大敗し決着する。
その結果が、それぞれの利害関係を発生させることを明示する。
もののけ姫・サンがタタラ場に夜襲を仕掛けてきた。
アシタカは両者の争いを止めようとするが、山犬に甚大な被害を受けてきたタタラ場の恨みも、
タタラ場に山や森を崩され仲間を殺されてきたもののけ姫の怒りも止まらない。
タタリを見せつけてその場を捌き、アシタカはサンを連れてタタラ場を去る。
復讐を止められたことでサンは怒り狂うが「生きろ、そなたは美しい」の言葉に動揺し、
重傷を負ったアシタカの生死をシシ神に託すことにした。
アシタカを介抱するうちサンは心を開いていくようになる。

2-D:悪役に迫る(p.55-75)
勝った敵キャラがグループを組んだりして、より勢力を伸ばす。
鉄を狙うアサノとの合戦に勝利してタタラ場を防衛するエボシら。
天朝様からの書付も神殺しの後ろ盾としてジコ坊により齎され、
ジバシリ・唐笠連と怪しげな勢力が続々とタタラ場に集結し始める。

2-E:全て失う(p.75)
主人公の人生はめちゃくちゃになり、死にたくなる。
味方のサブキャラである友人や恋人は死亡したり、裏切ったりする。
重傷も癒え、やっと立ち上がれるようになり、岩屋でモロと語らう場面。「黙れ小僧!」
森と人とが共存できる道はないのか。サンを救う術はないのか。
呪いで死んでいくお前に出来ることは何もないとモロから告げられる。

2-F:どん底(p.75-85)
主人公が、どうしてこうなってしまったのか、と考え込んで死にそうになる時期。
ここで主人公は、今までのストーリーで学んだことや、気づいたことを思い返し、自信回復へと繋げていく。
いよいよ人と森との戦いが始まろうとしていた。
サンは猪一族と共に戦火へ身を投じ、アシタカは森を出てタタラ場へと走る。
しかしエボシも男たちも出払ったタタラ場はその隙を突かれ侍の攻撃を受けていた。
この悲惨な戦いは、神殺しはもう止められないのか。

2-G:第三セクションへ移行(p.85)
自信を取り戻した主人公は強くなるため修行に入り、勝利の鍵を掴む。
アシタカはエボシを連れ戻すため山へ向かう。サンもまた、山犬たちと共に森へ入る。
■3.解決
3-A:大詰め(フィナーレ:p.85-110)
主人公はこのストーリーで学んだことの全てを敵にぶつける。
敵は倒れ、主人公の世界はより良い方向へ向かう。
アシタカはエボシに神殺しをやめるよう叫ぶが、エボシは構わず石火矢を放つ。
するとシシ神の首は確かに落ちたが、それはただの首ではなかった。首と胴の切断面から命を奪う不気味な粘液が溢れ出してきたのだ。
やがてその粘液は森を殺し、山を飲み込み、タタラ場を崩壊させてしまう。
サンはもう終わりだと絶望するが、アシタカはまだ望みはあると励まし、二人は協力して首をシシ神の元へ返す。

3-B:エンディングイメージ(p.110)
オープニングとは逆のイメージ。
この物語で得た教訓で、主人公の世界がどのように変わったのかを強調する。
もうシシ神の森ではなくなってしまったが、荒れ果てた森は新たな生命を得て蘇る。
アシタカの腕の呪いも消えていた。二人はそれぞれの場所で共に生きようと言葉を交わす。
エボシは力を合わせてより良い村を再建しようと語りかけている。
新たな若木が芽生え始めた。そのかたわらには樹の精霊・コダマが寄り添う。

「ビートシートメソッド」というものを初めて知って、「ふーんそんなのあるんだ?へえぇ」と手近にあった既存作品にあてはめてみた だけの話 ではあるのですが やっぱりメソッドはメソッドなんだなぁ… という説得力を感じます。気づかなかった…他にも片っ端からやってみたくなる…
そして何より こういうことを一々考えずサラッと応用できてしまう「当たり前の引き出しの持ち主」「ものすごく引出しの多い人」のことを、我々はつい天才と呼んでしまうのでしょう。
※画像は「スタジオジブリ 作品静止画」から使わせていただきました。ありがとうございました。