ゲーム『GRIS』開発者インタビュー(概訳)。バルセロナ発、美しき水彩の旅へようこそ。

2018年12月に発売されたゲーム「GRIS」(スペイン語で『灰色』)。

バルセロナの新興スタジオが開発したこのゲームは、開発段階から高い評価と期待を獲得していましたが、満を持して発売すると他に類を見ない美しさや印象的なストーリーテリングでなんと一週間で開発費用を回収。2019年の年末を飾るThe Game Awardではインディーながら『Best Art Direction』『Best Fresh Indie Developer』など3部門にノミネートされ、うちGame of Impactを受賞するなど快進撃を演じました。

 

 

嬉しいことに本作は日本でも人気を獲得。2021年5月にはFangamer Japanでグッズ取り扱いも始まりましたが、開発者インタビューはどうしても英語圏に比べれば少ないのが実情です。
でも自分は読みたかったのでやむをえず根性で読み、ついでにいつでも読み返せるよう、記事にまとめておくこととしました。

 

 


 

 

 

このインタビュー動画が公開されたのは2018年12月6日。正式リリースの約1週間前です。

応じてくれたのは「Nomada Studio」共同創設者のアドリアン・クエヴァス氏およびロジャー・メンドーサ氏、そしてアートを担当したコンラッド・ロゼット氏。
なんと音楽を担当したBerlinistまで顔を出してくれました。
ボリュームたっぷりのインタビュー、ぜひお楽しみください。

※素人による訳です。誤訳や誤記を含むことを前提にお目通しください。

 

 


 

 

はじまり

 

インタビュアーのJT氏(左)、プロデューサーのロジャー・メンドーサ氏(中央)、
テクニカルディレクターのアドリアン・クエヴァス氏(右)。

 

 

アドリアン・クエヴァス
(Nomada Studio 共同創立者 / テクニカルディレクター)
(インタビュアーを迎え入れたオフィス内で)ここがNomada Studio。バルセロナでも特に芸術に長けた、グラシアという地区にあります。

JT
(インタビュアー / Devolver Digital)
お二人は大学で出会ったんですよね。

アドリアン:そう、大学で。ロジャーはモントリオールで学位をとって、Ubisoftで働き始めていました。一緒にやらないかと声をかけてくれたんです。
僕らはモントリオールで楽しくやってるし、もし来たいならどうかなって。それで着いていったというわけです。

JT:その後、モントリオールからバルセロナに戻ったと。
二人ともUbisoft Barcelonaの社員として。

ロジャー・メンドーサ
(Nomada Studio共同創立者 / プロデューサー、プログラマー)
そう。それであるとき、友人たちと出掛けたある誕生日パーティーの場で、アーティストのコンラッドと出会ったんです。全くの偶然でした。当時の僕らはアーティストを必要としていて、コンラッドはゲームのアイデアは持っていたけど、プログラミングに関しては門外漢だった。すぐに意気投合して盛り上がりました。それであるとき、Ubisoftを辞めてこの仕事に集中しようと決めたんです。これをやろうと。

 

 

スペイン語で応対するクリエイティブディレクターのコンラッド・ロゼット氏(左)。
通訳を交えてのインタビュー

 

 

JT:これはあなたにとって初めてとなるゲーム開発でした。なぜゲームの世界に?

コンラッド・ロゼット
(Nomada Studio 共同創立者 / クリエイティブディレクター)
長い間アートの世界で働いてきて、何か新しいことに挑戦したかったんです。インディーゲームが台頭してきたこの時代にアドリアンとロジャーに出会えたことに感謝しています。自分のアートをGRISに持ち込む可能性を見ました。
インディーゲームの世界に目を開かせてくれた『風の旅ビト』『INSIDE』『モニュメントバレー』といった作品たちにも感謝しています。

 

2021年3月に投稿された、コンラッド・ロゼット氏のゲーム棚。
GRISプロジェクトが始まる以前からゲーム好きであったことが伺える(そしてジブリもある)。

 

世界観のきっかけは友人の鉛筆画でした。灰色から物語が始まるゲームというアイデアをとても気に入ったんです。

 

 

開発

 

 

 

ロジャー:彼は『白黒の世界からスタートして、世界に色を取り戻す』という基本ラインを持っていたので、僕らはそれに対するメカニズムや何ができるかについて話し合い、実現可能であると判断しました。

アドリアン:最初の頃はちょっとクレイジーな考えもありましたよ。ゲームを作る上で僕らは、ゲーム内の動きの一コマ一コマを紙に描いて、それをスキャンしてコンピューターに取り込もうとしていたんです(笑)。
出来は良かったけど、作業としてはやりすぎ。やったことあるチームがあるのも知っているし、すごくリアルだったんですけどね。作業量が凄いことになるから。
今でも水彩画などをスキャンすることはあります。どのブラシを使うべきか・どうやって紙の質感を表現しようかといった検討に多くの時間を費やしました。本物じゃないものを本物に見せたくて。

 

 

 

 

JT:やりたいことをゲームで実現する上で、アート面で当初の予定から変更せざるを得なかったり、あるいは妥協せざるを得なかったりしたことはありましたか?

コンラッド:これまではポスターや広告や展覧会の絵を描いていて、「最適化」「アセット」、「パターニング」「セット」とか、そういうものを考える必要のない業界にいました。ここではより数学的に、より合理的に、そしてアートはビデオゲームの中でどう機能するのか理解する必要があります。いい落とし所にたどり着けたと思っていますが、そういう意味ではちょっとした調整も必要でした。

 

 

オフィスを案内するアドリアン・クエヴァス氏(左)、楽しく見学するJT氏(右)。
「こんな空ッポな開発スケジュール初めて見た(笑)」
「前は付箋で埋まってましたよ!特に1年目はいつまでにこれをやろう、その次はこれ、次はこれって」
「もっと忙しくしてるかと」「ストレスなく過ごせてます(笑)」

 

 

JT:一番忙しい時期には何人くらいスタッフが働いていたんです?

アドリアン:最盛期で17、8人かな。

JT:その中で、ゲーム開発の経験者はたった4人程度だったと。

ロジャー:そうですね。いて4人か5人くらい。

アドリアン:共に働いた開発メンバーのほとんどがアーティストであったことを思えば、このゲームが極めてアーティスティックなものに仕上がったのは道理のいく話でしょう。

JT:そして音楽も素晴らしい。どうやって彼らを見つけたんです?

ロジャー:Twitter(笑)

JT:Twitter!(笑)

アドリアン:最初はコンラッドが教えてくれたんです、このゲームに合うんじゃないかって。それで聴いてみて、すぐ引き込まれました。これはものすごく、ものすごくいいぞと。

 

 

音楽

 

本作の音楽を担当したBerlinist。
ヴォーカルを担うジェンマ・ガマラ氏(左)、キーボードのマルコ・アルバーノ氏(中央)。

 

 

マルコ・アルバーノ
(Berlinist キーボード)
僕らはバルセロナを拠点とするバンドです。去年(2017年)はアルバムを複数リリースしましたし、それと…TVゲームのための作曲も(笑)。
コンラッドとは以前一緒に仕事をしたことがあったので、それで連絡してきたのでしょう。私がゲーマーであることも知っていましたから、単にゲームの世界観に合う音楽をというだけでなく、ゲームの構成などについてもスムーズにコミュニケーションを取ることができました。

 

 

Berlinistでキーボードとハーモニウム(鍵盤楽器)を担当するルイジ・ガヴァシ氏。

 

 

JT:最初に話が始まって、どれくらい掛かりましたか?その頃はまだゲームも完成していないわけですよね。音楽を作るときはどのように?

ジェンマ・ガマラ
(Berlinist ヴォーカリスト):
2年半くらいです。最初はコンラッドが2秒くらいで風景を描いてくれて…これがこうで、ここから物語が始まって、これが主人公で、これが背景で、この世界はどのように変化して…ってね。そこから全てが動き出しました。

 

 

「GRISにはイカしたパーカッションが必要だと思ってたんだよね」とマラカスを手に陽気なJT氏と、
それに合わせてメインテーマを伴奏してくれるマルコ・アルバーノ氏。

 

 

“ゲーム”

 

JT:このゲームを一言で説明するなら何になるでしょう。

ロジャー:パズルやちょっとしたチャレンジのある2Dプラットフォーマー…といったところでしょうけど、最初からずっと、とにかく誰にとっても取り組みやすいものを目指してきました。全体を通してひとつのゲーム体験としてね。『INSIDE』『風の旅ビト』『オリとくらやみの森』を少しずつ混ぜたようなゲームと言いたいところですが、それ以外からもたくさんの影響を受けています。

 

 

 

 

JT:(パズルなどを作るときは)先にアート要素のアイデアが浮かんで、こういうのがあるよと彼らに持っていったのですか?それとも彼らから「こういうゲームプレイの要素があるので、このためにデザインが欲しい」という話があって、そこから考えたのですか?

コンラッド:普段から、僕は多くのアイデアを抱えています。アイデアの中には良いものもよくないものもあるので、それを一緒に相談しながら、最終的にどれを残してどれを活かすか決めていきます。
クリエイティブは大部分が僕の担当したものですが、彼らからは多くのフィードバックをもらいましたし、相談相手にもなってくれて本当に助けになりました。彼らの役割を過小評価することはできません。

 

 

 

 

JT:ドレスで能力が変化するアイデアはどこから?

アドリアン:これは比喩のようなもので。そうだな…ゲームの中に、私達にとって何かを象徴するような要素が幾つかあるとしましょう。例えばドレスは、能力であるとか、彼女がどのように成長していくか、新しいものを得ていくかを表していると言えます。
これは誰にとっても人生で起こりうることで、成長によって得られた能力が次の問題を克服するのに役立ったりするわけです。彼女の成長を表現する手法として、バックグラウンドに意味を持たせる上でも役立ちました。

 

 

 

 

JT:皆さんがこのゲームで成し遂げた最も素晴らしい偉業のひとつは、人の感情を揺さぶる作品に仕上げきったことだと思います。先週、デモプレイのリハーサルをしていた時なんですが、私のひどいプレイングを見ていたスタッフが最後に私のところに来て。彼女は目に涙を浮かべていたんです。これまでにも人々が感動するところを見ましたか?驚きました?

ロジャー:ええ、あります。確か…あれはファミ通の人だったよね?

アドリアン:PAXでの?

ロジャー:そう、PAX。ゲームをプレイして泣いた人がいたんだ。すごく印象に残ってる。

 

 

この記事を書いたミル☆吉村記者と思われます。

 

 

 

 

アドリアン:最初に何度かプレイした時、音楽との組み合わせが…もちろんストーリーはちょっと知ってるわけですが、音楽、アート、テンポの良さ、それらがゲームのある瞬間に連れて行ってくれるようで。特に新しい色を開放するときなど幾つかのシーンでは、実際に音楽に連れて行かれるような感覚を覚えました。なぜかは分かりませんけど、僕も同じようにそうなるんです。音楽、アート、そして出来事、それらを感じるだけでちょっと涙が込み上げてきてしまう。特別な感覚です。

ロジャー:本当に。鳥肌が立ちます。

 

 

旅の終わり

 

 

 

マルコ:ゲームのどこかで、特に3、4ヶ所は感動するポイントがあるんじゃないかな。感情を揺り動かされる体験をしてほしいです。物語の中で今何が起こっているのか、これは何の旅なのか、GRISに何が起こっているのか。

 

 

 

 

JT:プロジェクトもいよいよ終わりに近づいてきました。今の気持ちはいかがですか。

ロジャー:よっしゃ(笑)

アドリアン:超嬉しい(笑)

ロジャー:休暇が欲しいんですよね(笑)

アドリアン:わかる!休みたい(笑)

JT:緊張したり、全く評価されなかったらどうしようって怖くなったりしませんか?そういう感情は当然のものかと。

ロジャー:気にしません。仕上がりにはとても満足しています。今はまだ(リリースを目前に控えて)ちょっと神経質になってるけど。

アドリアン:このプロジェクトを通して素晴らしい経験ができたと、心から感じています。最終的にほぼ構想していた通りにできて、非常に満足していますよ。気に入ってもらえれば良いのですが。もし気に入らなかったらごめんね?まあ僕らはものすごく気に入ってるし、本当に素晴らしいゲームだと思ってるんで(笑)
あなた好みのゲームじゃないと思うかもしれないけど、でも正直、やってみるべきですよ。これは本当に特別な作品で、僕らは心を込めて作り上げました。

 

 

 

 

マルコ:家の中で一人でプレイしてるだけですから、(リリースを控えて)とても不安ですよ。ただ成功を願うばかりです。私は常に楽曲単体で見るなんてできなくて、ゲーム全体を通して見てきましたから。

 

 

 

 

コンラッド:達成感に満ちています。自分の頭の中のイメージより悪いものにはしたくなかったし、結果的にはそれ以上のものを創ることができました。とても幸せだし、ほっとしています。

 

 


 

GRISは2020年4月に売上100万本を達成しました。今も数多くのファンに愛されながら、静かにその世界を広げています。
最初こそNintendo SwitchとPC(Steam)での販売でしたが、現在ではPS storeやiOS、Androidでも購入できるようになりました。

2020年11月、Nomada Studioは新プロジェクトに向けて採用を強化しているツイートを発信。次回作が動き出していることを明らかにしました。
上記ツイートのリンク先ページは現在消えてしまっていますが、内容はエンジニアとアーティストを求人するものでした。英語のみでも応募できるエンジニア職と異なり、シニアアーティストのポジションのみ必須スキルに『スペイン語』があったため、コンラッド・ロゼット氏のアートディレクションは次回作でも存分に発揮されるものと思われます。

これからも続く彼らの作品を楽しみにしましょう。

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