この本を手にとったきっかけは今となっては思い出せず、
ただ漠然と、それこそインターネットのどこかで、
この本に関する何かしらのよい評判を聞いていたのだろうと思います。

聞いていた高い評判に反して、本自体はとても小さくて薄い、極めてシンプルなものでした。
ページ数もわずか100ページほど。
マンガ単行本の平均が約200ページと言いますから、おおよそ薄さが伝わるでしょうか。
それなのにこの小さな本が、
事あるごとに読み返す本となったのです。
このページの目次
『アイデアのつくり方』
ジェームス・W・ヤングによる、知的発想法のロングセラー。
著者のジェームス・ウェブ・ヤング(James Webb Young)はアメリカの広告業界で知られた人物。
コピーライターとして広告業界でのキャリアを歩み始め、
のちにシカゴ大学ビジネススクールで広告と経営を教えました。
アメリカ最大の広告代理店トムプソン社の常任最高顧問も務め、
アメリカ広告代理業協会(4A)の会長職なども歴任しています。
雑誌のコラム等でも彼は多くの若者や実務家に広告の基礎を教えており、
これはそんな教えを凝縮した一冊と言えるでしょう。
仕事であっても趣味であっても、あるいは学校生活の中でも
「いいアイデアが浮かばない」と苦しんだ経験は多くの人が持っているのでは。
もし「よいアイデアの閃き」が常に手に入るなら?
いやいや常にとは言わずとも、ただじっと閃きが降ってくるのを待つのではなく、
そのペースを早めることができるなら。
これはそんな一冊です。
自分の話
少しだけ自分の思い出話を、すみません。
昔、まだ学生でサークル活動に没頭していた頃、
同じサークル内でべらぼうに絵のうまい奴がいました。
美大生のようにスケッチがうまいという訳ではなく(実際そいつの絵は写実寄りでしたが)、
シンプルな線で描かれる人物画がとにかく人の目を惹くのです。
鷲鼻だったり深いシワが刻まれていたり、
生々しい人の個性を描き出すのが、とにかく上手いやつでした。
サークル終わりに他のメンバーの帰り支度を待っている間、
ホワイトボードにさらさらっと謎の人物の見事な肖像画を描いてくれるのが日常でした。
ほんとに上手いなあと小さな新作を褒め称えながら、
描けないなりに隣にへたな顔を描き足したりしたのも楽しい思い出です。
しかも人物画がうまいだけでなく、そいつの腕前は空想の風景を描かせてもまた一級品でした。
空に浮かぶ島、羽の生えた隠者、トリッキーな謎めいた生き物。
次々と描かれるファンタジーの世界に、
世の中にはすごいセンスの持ち主がいるものだと驚嘆したものです。
あるとき、どうやったらこんなユニークなものが思い浮かぶのか、聞いたことがありました。
お気に入りの映画や本があるのか、尊敬する人物のアートスタイルを見習っているのか、
おそらくそんな答えを期待していたと思います。
そいつはこともなげに、反対のものを組み合わせるのだと教えてくれました。
年老いたものと若いもの。大きいものと小さいもの。
赤いものと青いもの。美しいものと醜いもの。
正反対のものを組み合わせればそれだけで、意外性があって面白いものが生まれる。
自分はそうやっているだけだと、あっさり返された答えは極めてシンプルでした。
そのときは「へえ、それでもすごいよ」程度の軽い返しをしたように記憶していますが、
それこそが凄いのだろうと今となっては感じられます。
きっと組み合わせる『反対』を選べるだけの広い知識と鋭敏な感覚こそが
漠然と『センス』と呼んでいたものの正体だろうと思うのです。
これから読む人へ
この本を手に取ったからと言って
じゃあ自分が尽きることのないアイデアの源泉になれたかというと、そんなことはありません。
ただ「自分にはアイデアもセンスもない…」と不毛な落胆を抱えることもなくなりました。
うまくいかない時は相応にインプットが足りないとき。
落ち込んでも思い悩んでも仕方がない。と、
前向きに切り替えることはずいぶん得意になれたように思います。
そういう意味で、これは実際に「背中を押してくれた本」だと言えます。
何も作れない・何もうまくいかないと倒れ込む日は今後もやってくるでしょうが、
たぶん自分はその度に「ま、インプットしてないんだからしゃーない」と
この本の教えを思い出すことになるでしょう。
この本、当然ですが英語版があります。
書名は『A Technique For Producing Ideas』。
日本語版を読み飽きたなら、あるいは英文を読んでみたいなら
そちらを取り寄せてみるのも楽しいかもしれませんね。
小さくはありますが、歩みを止めず歩き続ける力をくれる一冊です。
もしあなたがお悩みならきっと力になってくれますよ。